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スペシャルティコーヒーで世界とつながる

「スペシャルティコーヒー」に魅了されたことをきっかけに自分でお店を開くこととなった「COFFEA EXLIBRIS」太田原さんに「スペシャルティコーヒー」についてもお話を聞いてみました。

大きな変革をもたらしたコーヒー

スペシャルティコーヒーは、1970年代頃、欧米で「安かろう、不味かろうのコーヒー」でコーヒー離れを起こした反省から、「もっと美味しいコーヒーを」という消費者側からのニーズにより生まれたコーヒーです。今までのコーヒーにはない特徴的な風味特性があり、花やフルーツ、ナッツやチョコレートといった風味を感じる事ができます。味がきれいで飲みやすく、後味に嫌な味が残りません。最近のワインやクラフトビールのブームに似ています。少し前まで日本ではブランド名で売られていたワインしか流通していませんでしたが、今ではフランスの、ボルドーの、シャトーの、特定の畑の、特定の品種の様々な香りのワインを楽しむ事ができます。スペシャルティコーヒーも同じで産地や生産者を特定でき、今までのコーヒーにはない風味特性を感じる事ができます。

そのスペシャルティコーヒーは丁度私が丸山珈琲で働き始めた頃、日本にも入り始め、「明治維新」のような大きな変革をコーヒー業界にもたらしました。「美味しい」の基準も変わり、名店に行かないと飲めない「美味しさ」ではなく、街角のコーヒースタンドで「とても美味しい」コーヒーが手軽に飲めるようになります。当時の私達はちょん髷を散切り頭に、刀を鉄砲に持ち替えた武士のように、一旦、今までのコーヒーの常識を捨てて、新しいスペシャルティコーヒーの定義、技術を学び、抽出方法、焙煎方法を変えました。もっと言えば生産地での栽培、収穫方法も変わります。買い付け方法も生産者から直接買う方法に変えました。そうしないと大きな力を持った黒船が入って来たとき日本のコーヒー産業が危ういと感じたからです。実際にアメリカでは、飲まれているコーヒーの数パーセントだったスペシャルティコーヒーが、今では半数以上に拡大しています。理由は「美味しい」からです。残念ながら日本ではまだやっと10%を超えたところです。もっと「美味しいコーヒー」を多くの人に沢山飲んでもらいたい、そんな気持ちで日々買付け、焙煎、抽出をしています。

カップにそそぐのは生産者の想い

今はコロナ禍で行けませんが、生産地にはできるだけ足を運びたいと思っています。電話やメール1本で豆は入手できますが、可能な限りコーヒーを作っている場所、人を見てみたい、彼らの思いも知りたいと考えています。

3年前に足を運んだコスタリカではマイクロミル(小さな生産処理場)を作る取り組みを10年以上前から進めています。今までは手間ひまかけて作った美味しいAさんの豆も、手間をかけず作った隣のBさんの豆も大きなミル(生産処理場)に同じ金額で買い取られ混ぜられていました。マイクロミルを自分の農園に作る事により、自分のコーヒーとして販売できるようになります。コンテストにかけるとAさんのコーヒーが入賞して、オークションでBさんの数倍から数十倍の値段で落札されます。もっと美味しいコーヒーを作ろうとAさんは頑張り、Bさんも負けじと頑張ります。

マイクロミルの仕事は多岐に渡りますので、今まではお父さんの仕事だった農園の仕事を家族総出で手伝うようになり、家族の絆も深まります。親交の深い生産者、リカルドさんの農園では家族皆で汗を流して朝から晩まで働いています。私達が「もうそんなに丁寧に作らなくていいです!」と言いたくなる位、丁寧にコーヒーを作っています。彼は18歳まで靴が買えない程貧しかったそうですが、勤勉に働き、農園を買い足し、今ではコスタリカを代表する生産者になりました。そして彼の作るコーヒーは焙煎、抽出してみると、その仕事ぶりをコーヒーから感じる事ができます。とても味がきれいで甘く、酸は爽やかで香り豊か。後味も心地良い余韻で終わり、生産処理場での彼らの仕事ぶりが目に浮かびます。

今、こうした小規模生産者により近いところから購入する仕組み作りを全国の仲間達と進めています。キーワードは「美味しい」ですが、カップクオリティだけでなく、その生産者の人柄、農園の自然環境、労働社会環境まで含めたトータルのクオリティをお客様にお届けする事ができないか模索中です。

少ないことは豊かなこと

最近読んだ本に書いてあった「少ないことは豊かである」という言葉には考えさせられます。大量生産されたものは安くて便利ですが、その大量生産にはどこかしら無理があり、環境面や社会的な側面を考えるといつまで続くか疑問です。私達は小さなロースターで、コーヒーの小規模生産者が丁寧に作った小さなロット(マイクロロット)の美味しいコーヒーを買付け、丁寧に焙煎してお届けしています。大量生産というよりはマニファクチャ(家内制手工業)に近いビジネスです。でもそんなコーヒーの方が、大きなコーヒーチェーンのコーヒーよりも少し高いけど美味しいのです。美味しいものには発見や驚き、感動があり気持ちを豊かにしてくれます。

私も消費者としてできるだけ「小さかったり、少ないけど豊か」になる美味しいもの、良いものを選ぶことを心がけています。小さな消費行動ですがそこから世界が少しだけ変わるかもしれない。そしてその良さ、美味しさが続ける理由になる。少し高いかもしれませんが、そこにはきちんとコストがかかっていて私達はそこにまっとうな対価を払っているのです。

大きなお店やチェーンは社会のインフラになっていて、それ無しには生活はできません。多くの場合、そうした大きなビジネスが利益を独占する経済構造になっています。それでも小さなビジネス(小商い)の居場所がある世界であって欲しいと思います。それが多様性のある豊かな社会に繋がるはずです。お店のある下北沢でも近所の八百屋さんや豆腐屋が無くなりました。スーパーやコンビニは便利で、もちろん使いますが、実はご近所の八百屋さんが近くて品揃えも豊富、商品説明もきちんと教えてくれて便利だったりもしました。

コーヒーにおいても、価格やボリューム、ブランド力では太刀打ちできない小さなコーヒーショップや小規模生産者が「美味しい」をキーワードに持続可能なモデルを構築できればと夢見ています。先述の本の中では私達が20年前から取り組んでいた試みを同時代にコーヒーの生産者や他の国のロースターも取り組み初めていたことを知り勇気づけられました。一杯のコーヒーが皆様の生活や社会を豊かにするものであって欲しいと願って止みません。

PROFILE

COFFEA EXLIBRIS

太田原 一隆さん

東京・下北沢で、スペシャルティコーヒー専門店「COFFEA EXLIBRIS(コフィア エクスリブリス)」と東府中「COFFEA EXLIBRIS  kettle(ケトル)」の2店舗を営む。